My Best of 七尾旅人

杉本航平

かけがえのない幸せなとき、不安と希望をないまぜに抱いて過ごした日々、大切な人をなくして身動きひとつ取れなくなったとき……七尾さんの歌は人生のあらゆる時期と分かちがたく結びついています。なんとか10曲を選び出してみて思うのは、いつも七尾さんの歌に励まされ、鼓舞されていたということです。
歌と発話を、性別を、こことそこ、あらゆる時空を自由に行き来する声=歌。圧倒的にマジカルな七尾さんの音楽を聴くと、誰にでもなれる、どこへでもいけると思えます。同時に、どうしても自分という存在からは逃れられない、その苦しみや、業のようなものをも自覚する。そうして想像力を巡らせた先にあってはじめて、この世のどんな些細なことも愛おしく思えてくるのです。たびたび通ったライヴで「息をのんで」を歌う七尾さんの姿には、そのすべてが凝縮されているようでした。
編集者として仕事をはじめてすぐ、七尾さんと関わらせてもらえたことは一生のことです。そして『兵士A』が産み落とされたあの瞬間、忘れようにも絶対忘れられないでしょう。「Tender Games」を番外編として、書き加えたいと思います。